新しい腫瘍の治療法「電気化学療法」の研修を受けてきました!
こんにちは。千葉県習志野市奏の杜/津田沼/谷津の 『奏の杜どうぶつ病院』 院長の愛宕です。
先日『日本小動物がんセンター センター長』である腫瘍専門医 小林哲也先生が在籍する埼玉県蕨市の小林犬猫病院さんを見学させていただく機会がありました!
腫瘍に対する新しい治療法として注目されている【電気化学療法】の勉強をさせていただくためです。
今回はこの【電気化学療法】についてご紹介します。
電気化学療法ってなに?
電気化学療法(Electrochemotherapy; ECT)はヨーロッパ発祥の悪性腫瘍に対する局所治療の1つです。特殊な装置を用いて腫瘍に電圧をかけると一時的に細胞膜の透過性が上がり、腫瘍細胞内に化学療法剤(抗がん剤)が入りやすくなります。
たとえば電気化学療法でよく使われるブレオマイシンという抗がん剤の場合は、電圧をかけた場所の周囲のみ100〜5000倍に効果が増強されるというデータがあります。
この原理を利用して従来は抗がん剤の効果が低いとされていた腫瘍に対しても、少量の薬剤投与で抗腫瘍効果を得ることができます。

どんな腫瘍に効果があるの?
2025年現在以下の腫瘍に対して効果が認められています。また、理論上はその他の腫瘍に対しても効果がある可能性が高いため、今後の研究により適応範囲が広がっていくことが期待されています。
特に顕微鏡的病変(手術後等で明らかな腫瘍塊が存在しない状態)では原則としてほぼすべての悪性腫瘍に対して効果的な可能性があります。 ただし、電極を直接腫瘍組織に当てる必要があるため、現状では体の表面や口腔内にできた腫瘍に限られます。
犬の腫瘍 | 猫の腫瘍 |
肥満細胞腫 扁平上皮癌 肛門嚢腺癌 軟部組織腫瘍(軟部組織肉腫) 悪性黒色腫(メラノーマ) 髄外性形質細胞腫 棘細胞性エナメル上皮腫 など |
肥満細胞腫 皮膚扁平上皮癌 など |
手術での完全切除が難しい腫瘍に対する新たな治療選択肢として期待
(a) 治療開始前 (b) 電気化学療法実施1ヶ月後 (c) 2回目の電気化学療法実施後1ヶ月で腫瘍が消失(完全寛解) (d) 4ヶ月後も再発なし |

こちらは猫ちゃんの皮膚扁平上皮癌に対して電気化学療法を行った治療経過の写真です(海外の文献からの引用)。
従来はこの子のようにマズルの皮膚にがんができてしまった場合には、腫瘍細胞を取りきるためにかなり広範囲に手術で切除する必要があり、顔の見た目の変化を気にされるご家族も少なくありませんでした。
しかし、電気化学療法を実施することで、手術を実施せず、見た目の変化を最小限にとどめた上で腫瘍を消失させることができました。
左:治療前 右:電気化学療法実施4ヶ月後 |

こちらはワンちゃんの口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)に対して電気化学療法を行った写真です。
メラノーマも治療に悩まされることが多い腫瘍の1つで、特に口の中にできると痛みによる食欲不振や腫瘍からの出血、口臭が問題となります。
完全切除のためには顎骨切除(上顎切除や下顎切除)が必要になることも多いです。
しかし、電気化学療法を行うことで、顎を切除することなく腫瘍を縮小させることができました。
じゃあ手術はしなくても良いの?
腫瘍の治療においては、手術で腫瘍細胞を取り除くことが最大の治療になるのは疑いようのない事実です。
手術で取り切れる可能性が高い場所にできた腫瘍に関しては、今後も手術が第一選択治療という考え方は変わらないでしょう。
しかし、手術で取りきることが難しい場所にできた腫瘍や、顎骨切除など見た目の大きな変化を伴う手術が必要な腫瘍、足を丸ごと切り落とす「断脚術」をしなければ完全切除ができない腫瘍ができてしまった子たちにとっては、電気化学療法は新たな希望になるのではないでしょうか。
他にも、眼瞼(まぶた)にできた悪性腫瘍を、眼瞼機能を温存して眼球摘出をせずに治療することも期待できます。
おわりに:当院でも電気化学療法を実施可能です!
当院でも電気化学療法を実施する準備が整いました!
おそらく千葉県内の動物病院では初導入となるのではないかと思います。
奏の杜どうぶつ病院(TEL) / 新習志野どうぶつ病院(TEL)の両施設で実施可能です。
ご興味のある方はお電話でお問い合わせください!
奏の杜どうぶつ病院 愛宕哲也