電気化学療法について② 〜どんな腫瘍に効果があるの?〜
千葉県習志野市奏の杜/津田沼/谷津の 『奏の杜どうぶつ病院』 院長の愛宕です。
当院では、従来の方法では治療が困難な悪性腫瘍(がん)に対する治療として【電気化学療法】を実施しております。
今回は電気化学療法を受けたネコちゃんワンちゃんのご紹介と、過去に報告されている治療実績のお話をします。
前回の記事をご覧になりたい場合はこちら(電気化学療法① 〜電気化学療法ってなに?〜)へ
猫の皮膚扁平上皮癌

猫の皮膚扁平上皮癌には電気化学療法が非常によく効くと考えられており、文献にもよりますが奏効率80〜100%(うち完全奏効が40〜82%、部分奏効が0〜62%)と報告されています。
(Tozon N,2014 Spugnini EP, 2009 Dos Anjos DS, 2020 Simcic P, 2021 Tellado M, 2022)
犬の口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)

犬の口腔内メラノーマも治療に苦慮することの多い腫瘍です。
完全切除のためには顎骨を含めた切除が必要になることが多く、切除困難な場所にできることも珍しくありません。
放射線治療が効果的なことがわかっていますが、実施できる施設が限られること、治療費が高額なことが問題になります。
電気化学療法単独による治療では、直径4cm未満の口腔内メラノーマで奏効率70%(完全寛解21%、部分寛解49%)と報告されており、直径5cm以上のメラノーマでも奏効率100%(完全寛解寛解54%、部分寛解46%)というデータも出ています。
(Moretti G, 2022)
その他にも様々な腫瘍に対して効果が認められている
肉眼的病変(明らかな腫瘍塊が存在している状態)でも、以下の腫瘍を縮小させることができたという報告があります。
犬:肥満細胞腫、扁平上皮癌、軟部組織肉腫(軟部組織腫瘍)、棘細胞性エナメル上皮腫、肛門周囲腺癌/腺腫、髄外性形質細胞腫
猫:扁平上皮癌、末梢神経鞘腫
また、顕微鏡的病変(手術後などで明らかな腫瘍塊が存在しない状態)では、ほとんどすべての腫瘍に対して再発を防ぐ効果があると考えられています。
この効果を利用して、従来では眼球摘出、顎骨切除や断脚術といった大掛かりな手術を行わなければ完全切除が難しいとされていた腫瘍に対して、最小限の切除を行った上で補助的に電気化学療法を実施し、切除しきれなかった腫瘍細胞を破壊するという使い方も可能です。
適応とならない腫瘍は?
このように様々な腫瘍に対して効果的な電気化学療法ですが、もちろん適応とならない腫瘍も存在します。
・腹腔内や胸腔内など、体表からアクセスできない部位に形成された腫瘍
電極を直接腫瘍組織に当てる必要があるため、現状では皮膚などの体の表面や口腔内などに形成された腫瘍にしか実施できません。
しかし、研究レベルでは手術中に腹腔内の腫瘍に電気化学療法を実施した例も報告されてきているため、今後治療の選択肢になる可能性はあります。
・骨にできた腫瘍や、明らかな骨への浸潤がある腫瘍
骨組織には電気が流れていかないため、効果が不十分であるおそれがあります。
・すでにリンパ節や遠隔臓器(肺など)への転移が認められる腫瘍
電気化学療法はあくまでも『局所治療』のため、転移病巣への効果は明確ではありません。
しかし、『アブスコパル効果』といって「がんへの局所治療によって、抗腫瘍免疫が活性化され治療をしていない他の病変(電気化学療法が届かなかったところや、転移病巣など)にも縮小効果が見られる現象」が期待できるのではないかとも考えられています。
また、原発腫瘍が形成された部位の疼痛や物理的な圧迫などによる症状の緩和には有効な場合があります。
次回は電気化学療法で起こりうる副作用と、当院での施術の流れをします。
奏の杜どうぶつ病院は予約診療を行っております。
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奏の杜どうぶつ病院 院長
獣医腫瘍科認定医Ⅱ種 愛宕哲也